山陰海岸国立公園のひとつに数えられる香住海岸は、兵庫県の北部に位置する美方郡香美町に伸びる景勝地です。その海岸線は海水浴場はもちろんのこと、島々や崖そして奇岩などさまざまな魅力を見せてくれます。山陰の海岸線には、波の侵食によって複雑に入り組んだ海食崖が多いのですが、香住湾を取り囲む海岸はとりわけ海食崖が多いのが特徴です。それだけ豊かな景観を楽しめることを示しています。断崖の岬である大引きの鼻には、海抜およそ50メートルのところに展望台が設けられており、そこから一望できる自然はまさに雄大そのものです。
こうした断崖は侵食によって峡谷を形作ることもしばしばですが、大引きの鼻周辺も例外ではありません。その他にも香住海岸エリアは、侵食によって生まれた美しい景観が多く見られる場所です。その中でも国の天然記念物鎧の袖は、高さ約70メートル、幅200メートルしかも傾斜角が70度の切り立った崖です。名前の由来は、規則正しく柱状と板状の模様が交差する様子が、武士が戦のときに身につける鎧のおどしのように見えるところから名付けられました。鎧の袖に連なるように鷹の巣島やくじゃく洞門といった珍しい崖の姿も見られます。鎧の袖からさらに西へ進めば、松ヶ崎百層崖があり、地層のラインを眺められます。
大引きの鼻からやや西へ行った場所、香住海岸ほぼ中央に今子浦があります。海水浴場に最適な砂浜や岩礁が美しい千畳敷が隣合い、沖には黒島や白石島そしてかえる島が望め、特に夕景は旅情にあふれる自然に息を呑むでしょう。黒島を初めとする島々や、城山半島などの香住海岸の名勝を陸から見るのも魅力的ですが、視点を変えて海から眺めるとよりいっそう自然の営みや時の雄大な流れが感じられ、素晴らしい経験となります。遊覧船を利用すれば海から見学可能なので、検討すると良いでしょう。
なにより遊覧船のメリットは乗務員が同乗しガイドしてくれることであり、個人では見逃しがちな名所や見どころを周遊してくれることです。時間もだいたい1時間おきに出発しており、しっかり計画を立てなくても乗船できるのは、とても便利です。ちなみに今子浦の海岸から黒島までの距離はとても近いので、ダイビングで島周辺の生き物と触れ合うのも良いですし、釣りを楽しむのにも最適でしょう。黒島はクロマツが多く自生する無人の小島で、対岸からの姿は昔話で見るようなどこか懐かしい感じがします。